というクイズを、子供に出したとします。ちょっと気が利く子供なら、しばらく考えた後に、にっこりと笑い、こう答えると思います。「わかった! もっと凄い新マシンが発売されたからだね!」
そうなんですよね。こう答えるのが当然なのです。つまり、わたしたちは、きっと難しく考えすぎている。ゲーム機(や対応ソフト)が売れなくなったのならば、真っ先に考えるべきは、「もっと面白いゲームが登場したのではないか?」という可能性であるべきです。
プレイステーション2が発売されれば、初代プレイステーションの売上は、一気に下落しています。当然のことです。ここで初代プレイステーションの売り上げデータだけを抽出すると、あたかも「わずか1〜2年で、プレイステーション市場が崩壊した!」ように見えるでしょう。ゲーム市場が崩壊したわけではなく、むしろ元気になっているにもかかわらず、です。
1983年あたりを機に、ATARI VCSは、ハード・ソフトともに、売り上げを急落させた。
さて。これが、「アタリ・ショック」と呼ばれる現象で、いま判明している事実のすべてです。その理由として、「ソフトの粗製乱造により、ユーザーに愛想をつかされたのだ」という考え方が一般化していますが、それが正しいかどうかは不明なのです。それらは、批評家が後になってから考え出した理由付けに過ぎないかもしれないからですね。
だとすると、この急激な売り上げの下落の理由は
より魅力的なマシンが市場に登場した。
ATARI VCSは、そのマシンとの競争に敗北した。
と考えるほうが、理にかなっているはずです。だって、1400万人ものゲームファンが、一斉にゲームに飽きてしまった。そして空白期間ができた。しかし2〜3年後には、それ以上の人数がファミコンに夢中になったのだ! と考えるのは、むしろ無理があると思うのですが、どうでしょう?
「それは違う。データを見れば一目瞭然だ。ATARI VSCが売れなくなっただけじゃなく、他のテレビゲームも売れなくなっているんだ! 本当に空白期間があったんだよ!」
と主張する人もいるでしょう。たしかに、ATARI VCSが売れなくなったとき、かわりに他のテレビゲーム機(いくつか存在していたようです)が売れたというデータは残っていない。1985年にNES(北米版ファミコン)が発売されるまでの間、アメリカの家庭用テレビゲーム市場には、みごとなまでに空白期間があるのです。
しかし、ちょっと待ってください。
このデータ、本当に信頼できるものなのでしょうか?
たとえば、こんな記事があったとしましょう。事前に念を押しておきますが、この文章は、正しいデータに基づいて書かれています。では、ちょっと読んでみてください。
「1988年。日本のビデオゲーム市場は、『スーパーマリオブラザース3』『ドラゴンクエスト3』など、4本のミリオンセラーを輩出。この4本の売り上げだけで1000万本の売り上げを記録した。しかし、翌年の1989年、ミリオンセラーは『ファミコンジャンプ英雄列伝』の1本だけに激減。その売り上げも110万本ていどに過ぎず、つまり日本のビデオゲーム市場は、大幅な落ち込みを見せていたと考えるべきなのである」
さて。上記の文章を、あなたは信じますか? どうにも信じられない、と感じる人の方が多いと思われます。とりわけ昔からゲームに親しんでいた人ほど、「あれ? そんなに売り上げが落ち込んだ時期なんて、あったっけ?」と、直感的に疑問を感じるでしょう。
はい。あなたの直感は正しい。じつはこれ、文中に「ビデオゲーム」という言葉を使っていることからもわかるように、海外で言うところの「ビデオゲーム=据え置き機」の対応ソフトだけを対象にしてデータを抽出し、それを元に書いたみた文章なのですね。ゲームソフト全体でみると、1989年はゲームボーイの登場年であり、『テトリス』『スーパーマリオランド』など、携帯ゲーム機だけで4本のミリオンセラーがあり、その4本の合計だけで1000万本を突破。前年を越える豊作年だったのです。
これからもわかるように、特定のカテゴリだけに目を向け、他のカテゴリを無視すると、いくらでも「現実とは乖離した、とんでもないデータ」が出ることは、よくあることなのです。
ATARI VCSに話を戻しましょう。
明快な真実としてわかっているのは、「1983年前後を機に、わずか1〜2年で、ATARI VCSというゲーム機と、その対応ソフトが、ほとんど売れなくなった」ということです。そして「ATARI VSCにとってかわるような、新しい家庭用ゲーム機は、まだアメリカに存在していない」というのも、どうやら事実のようです。
だとすると、導かれる結論は、ひとつしかないと思うのですよ。あまりに盲点になっていたため、気づいていないだけなのです。もっとシンプルに考えればいい。もっとも納得のいく説明は、以下のようなものになるはずです。
ATARI VCSは、ゲーム機以外のマシンに負けたのだ!
そうです。ATARI VCSは「家庭用ゲーム機ではない、別のデジタル・エンタテインメントに市場を奪われた」と考えればいい。ゲーム愛好者たちは、そちらの新しい娯楽に飛びついた、と考えればいい。
これならば、1400万人のゲーム愛好者は、かわることなくゲームを楽しみ続けたことになります。空白期間はなかったことになるのです。しかも、そのマシンは家庭用ゲーム機でなかったのだから、当時の家庭用ゲーム機市場の売り上げデータだけを見たとき、一気に市場が崩壊したように見える結果しか残らないのも、当然のこととなります。
さて。この推論は正しい(あるいは、説得力がある)のでしょうか?
それを判断するのはカンタンです。1983年前後に、家庭用ゲーム機ではないけれど、テレビゲームを愛好するユーザーたちの心をつかむような、「完全なる別マシン」があったかどうかを調べればいい。
では次回、それを探ってみましょう。
[この項、後日へ続きます]
興味深い記事に思わず引き込まれてしまってます。
私は、アタリVCSの市場があっという間に崩壊してなくなってしまったという意味では「アタリショックという現象は存在した」と思うのですが、それは置いといて「完全なる別マシン」が何か?
次回?の解答編すごく楽しみです。